匂いの記憶

屋根裏部屋へ

匂いの記憶

屋根裏部屋はいつも酒臭かった。
度々父親が寝部屋で吐き散らした・・・胃液とアルコールの匂い。
部屋の隅には新聞紙で覆われた洗面器
恐る恐る覗いてみると嘔吐した汚物があった
今は開かずの部屋となった2階が新婚の部屋、そこに眠っていた。
いつも姉は父親と母親の間、私は母よりの外側だった。
北に小さな窓だけがある昼でも暗い部屋。
いつものように尿意を模様して目を醒ます。




「ジョー〜」と木製の桶に放尿して布団に戻る。そうオマルだ。
母はそ〜っと襖を少しだけ開けて小声でなにやら話す・・・
多分溢さぬように促していたと思う。
柱に向かって放尿・・・夢遊病のような幼年期は度々失敗した。
1階のトイレまでは、寝部屋を出て、階段を降りて、台所から
引き戸を開けて一段下がり、風呂場の前を通って突き当り・・
幼い子供には酷な距離だった。

おねしょはかなり遅くまでした。
記憶では小4の夏休みまでしていた・・・。
親類の家にお泊りした日が、最後だと思う。
実際自信はなかった・・・。
まさか、おまるを準備して欲しいと言う事も云えない。
寝る前にはシッカリ用を済ませ呪文までかけた。
それでも駄目だった。
朝に布団から出る事が辛かった思いがある。
できるだけ布団の中を乾かそうと悪あがき
足を擦り合わせればいくらでも乾くだろうと思った
遅くまで布団から出る事は出来なかった。
さすがに時間が経ち、追い立てられ急いで身支度に懸かる。
慌てたふりで急いで布団をたたみ押入れに丸め込んだ・・・。

パジャマもシッカリ濡れていた・・・
どう後、どうやってその場をしのいで、家に帰ったのか良く覚えては居ない。
足を擦り合わせ乾燥させる度に漂う。
ほのかな尿の匂いが、肩先から抜け出す。
それは軽い鼻を突く匂いだった。

つづく・・・<以後文章の修正あり>


屋根裏から奥座敷

年に何度か座敷で眠る事があった。
2階の屋根裏部屋から奥座敷に寝室を移した両親
小学校中学年頃だったに思う。
明るくて広い座敷は憧れだった・・・
その当時は一番いい部屋でも有ったにもかかわらず
特別な事でもない限り、空けていた。

座敷と奥座敷の二部屋が両親の部屋となって
幼心にもはしゃいで大喜びした。
一番の違いは広さもさることながら天井の高さだ。
梁から更に五尺(150cm)ほどに天井がある。
屋根裏部屋とはれっきとして圧迫感が違う。
開放された感じがした。
天井の木目を見ながら眠りに付くと不思議にも体が
宙に吸い込まれていく気さえした。
銀河に見立てた木目は凝視していると自己催眠にでも
かかった感じとなる。

奥座敷が通常の寝室に変わってからは、隣の座敷は
必然的に遊び場となった。
年に数度来客が有って泊まりになると、その座敷と中ノ間は
臨時の宿泊部屋となった。
お盆や正月に従兄弟たちと遅くまで遊んだ。
欄間が入れられていなかった当時は、枕が飛んで来たりした。
座敷で眠る事は非常に楽しい記憶がほとんどだ。

が、この座敷に眠ると不思議と妙な夢にいつも辿り付くのだった。
<続く>